東北大×工学×女性×キャリア 未来への挑戦

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様々な分野の
専門家と協働して、
材料の面から社会の
発展を支える。

西畑 ひとみさん
日本製鉄株式会社 技術開発本部 鉄鋼研究所
1997年 新潟県立新潟高等学校卒業、東北大学工学部マテリアル・開発系(現:材料科学総合学科)入学。2001年 同卒業、東北大学大学院工学研究科材料加工プロセス学専攻(現:材料システム工学専攻)博士課程前期入学。2003年 同修了、住友金属工業に入社し、総合技術研究所に配属。会社統合による社名変更や部署異動を経て、2021年 技術開発本部鉄鋼研究所材料ソリューション研究部。現在、上席主幹研究員。この間、2015年 在職のまま東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻博士課程後期入学。 2016年 同修了(社会人博士)。

「モノの性能を支え、未来を変える」。先進材料の開発・研究に憧れを抱き、東北大学工学部を志望。

高校時代、物理と化学が好きだったので、あまり深く考えずに工学部を目指しました。親しくしていた高校の部活の先輩が東北大学に進学していたこともあり、高3の夏休みに大学の見学がてら仙台に遊びに。キャンパスも街も緑に囲まれてとても魅力的に感じ、「ここで暮らしながら学んでみたい」と、東北大学に志望を決めました。

材料系の分野を選んだのは東北大学工学部に志望を定め、専門について調べ始めてからです。「どんなに素晴らしい機械・構造を構想できても、それを実現する素材がなければ始まらない」という内容の記事を読み、モノの性能を支え、未来を変える先進材料の開発・研究という分野にあこがれを抱きました。

工学部は女性が少ないですが、高校の理系クラスでも女子が40人中6人という環境で、女子同士でも男女混合のグループでも楽しく過ごせていたので、進学するにあたって不安は感じませんでした。案の定、大学でも同じ学科の女子全員とすぐに仲良くなりました。もともと人数が少ないので、グループに分かれるのではなく、本当に全員。そのほとんどは初めての一人暮らしで、誰かの家に集まって深夜まで女子会をしたり、楽しく過ごしました。

大学生活では全国各地から学生が集まり、人間関係の点で一気に世界が広がりました。同じものを見て、自分と同じように感じているのを知ってぐっと仲良くなったり、自分では思いもしなかった感想・意見に驚いたり考えさせられたり。新しい人との出会い・関わりを通じて、視座が高まりました。

自ら実験方法を考え、工夫し、考察して検証。研究活動のサイクルを身につけた研究室時代。

研究室では材料システム工学の接合界面設計学講座に所属。卒論・修論ともにアルミニウム合金を対象に、その接合技術の一つである摩擦接合、摩擦攪拌接合に関する研究に取り組みました。

卒論・修論に関わる研究を通じて、知りたいこと・確かめたいことのために実験方法を考える、既存の実験設備や手段がなければ工夫して実験する、得られた実験結果をもとに考察し、次に何を調べ、検証すべきか考えるという、研究活動のサイクルを学びました。研究室では2週に1回のペースで研究進捗を報告し合い、先生に助言をいただいたり、学生間で議論する機会があったので、こまめに実験結果をまとめ、報告のペースに合わせて実験計画を立てる習慣がつきました。

金属材料の魅力に惹かれ、鉄鋼材料メーカーへ。様々な分野の専門家と協働できる喜びを実感。

大学院まで金属材料について学んでみてそれが面白かったことから、自然と「やはり材料メーカーに就職したい」と考えました。その中で鉄鋼産業を選んだのは、台所用品・家電といった身近なものから、ビルや橋梁などの大型構造物、自動車や各種インフラなど、とにかく広く使われている鉄鋼材料のメーカーであれば色々なモノづくりに関わり、社会に貢献できると考えたからです。また、学部3年生のときに参加した企業見学ツアーで製鉄所を見学した際に見た、真っ赤に輝く鉄の美しさや操業のダイナミックさが印象に残っており、「かっこいいな」と思ったのも動機の一つです。

入社から約10年間は自動車用鋼板の溶接技術開発に取り組みました。社内の「加工」や「破壊」の専門家と一緒に、時にはお客様先の研究者・技術者とも一緒に、ある部品の特性向上に取り組んだり、部品製造時の課題解決に取り組んだりする一方で、社内で開発中の新しい鋼板について、「材料」「表面処理」の専門家と一緒に、作りこんだ材料機能を活かせる接合方法を考えたりしました。

2014年の社内異動で金属材料の組織設計やそれを作りこむプロセス設計などの基盤研究に携わることになりました。この部署には数学や物理、化学など様々な専門性を持つ研究者が集まっており、金属を作る過程や使う過程で起こる様々な現象(破壊、腐食など)について、何が起こっているのか、どうやって制御するかを高度な解析技術や計算技術も活用しながら研究していました。目の前の課題というよりは10年・20年先に花開く技術を目指して、あるいは一つの製品ではなく「鉄」という共通点を持つ広い品種に応用できる普遍的な原理・現象の解明を目指した研究です。

現在は再び、自動車用鋼板の利用技術の研究に携わっています。所属している部の研究者の所在地は、千葉県富津市と兵庫県尼崎市の研究所に分かれていますが、以前はテレビ会議、現在はWEB会議で頻繁にコミュニケーションをとっています。当社にはもともと、様々な事情を持つ人材が働けるようテレワークの仕組みがありましたが、コロナ禍でその利用がぐっと進みました。人によっては週の半分をテレワークにする、週ごとに出社/テレワークを切り替えるなど、働き方は様々です。私自身は出社して直接「モノ(試験片など)」を見たいと思うタイプなのでほぼ毎日出社しているのですが、例えば午後から出張になる日の午前中はテレワークをするとか、一日中WEB会議や報告会に参加する予定の日はテレワークにするなど、必要に応じてテレワークを利用しています。

上司の勧めで社会人博士に挑戦。先生方と議論した経験が現在の仕事にも生きる。

2014年に基盤研究の部署に異動した際に、上司から「このチャンスに博士号取得を目指してはどうか」と勧めていただき、社会人博士号取得を目指して博士課程後期進学を決めました。博士論文のテーマとして選んだのは、入社後から取り組んでいた自動車用鋼板の溶接技術開発の研究内容です。以前の仕事を丹念に振り返り、考察を加えて文章化し、先生方と議論させていただくことができ、その経験が現在の仕事でも役立っています。

研究者の醍醐味は「初めて何かを知る面白さ」。今後は若手研究者のサポートにも尽力したい。

研究者の仕事は、実験することやモノを作ることが単純に楽しいという一面があります。「あ、ここでは金属のこんな組織変化が起こっているのか」と、初めて何かを知る面白さが日々の業務で感じるやりがいです。何か仮説を立てて検証実験をして、思った通りの結果が得られたときはうれしいし、予想外の結果が出れば、それはそれで「何か新しい発見をできるかもしれない」とわくわくする。これは多くの研究者・技術者に共通する楽しみなのではないかと思います。

また、私自身は今やっている研究が「将来どこで・誰の役に立つのかを感じられる仕事がしたい」という考えがあります。利用技術の研究では、お客様や、お客様と日々接している営業部門とも接する機会も多く、そのニーズを知ることがモチベーションの向上につながります。

一番長く携わった「溶接・接合」の分野に関していえば、材料組織・特性を作る人、表面処理で表面機能を作る人、構造の最適化を通して部品特性を作る人、そのかたちを実現する工法を作る人・・・。様々な分野の研究者・技術者と協働できる喜びもありました。

40歳台を迎え管理職としても数年経った今、プレイヤーとしてではなく、マネジメントで研究に関わることも増えてきました。私たち世代では解決できなかった課題や新しい課題を解決していくのは、柔軟に考える力があり、体力・集中力があり、好奇心にあふれる若手の研究者です。後輩である若手研究者たちがそれぞれの能力を発揮し、また長所を伸ばしながら研究を進め成果を上げ、安全・健康かつ生き生きと働けるように支援していくことにも注力していきたいと考えています。

高校生のあなたへ

若い皆さんにはたくさんの選択肢があり、可能性はまだまだ広がります。高校で文理選択し、大学で専門を決める過程は、一見すると1つの選択肢に絞ったようですが、「これまでに見えていなかった新しい選択肢が増える道に進んだこと」に他なりません。「好きなこと」「好きになれそうなこと」に思う存分チャレンジしてください。応援してくれるご家族にも、どうぞ感謝を忘れずに。

好きなことを勉強するのはきっと楽しいし、同じことに興味を持ち、でも違う感性を持ち、一緒に怒ったり喜んだりできる新しい仲間にも出会えます。楽しい学生生活が待ってますよ。

保護者の皆さまへ

ご存知のように、大学進学する女性も、その後社会で活躍する女性も増えています。地域社会でも企業でも、働く女性をサポートする様々な仕組みが導入されてきており、多様な働き方がしやすい時代になっています。心配事も多いとは思いますが、好きなことを学ぶことは楽しく、学校や社会で困難に出会っても「好きなこと」であれば続けられる。続けるための努力や工夫ができる、と思っています。ぜひお子さまの挑戦を見守り、応援してほしいと思います。

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