今起きていることを
リアルタイムで伝える。
音声のプロとして
オリンピックを目指す。
- 蔭山 友紀子さん
- 日本テレビ放送網株式会社 技術統括局(現職出向)
株式会社日テレ・テクニカル・リソーシズ(NiTRo) 制作技術センター制作技術部 音声 - 2011年 東京都立八王子東高等学校卒業。2012年 東北大学工学部情報知能システム総合学科(現:電気情報物理工学科)入学。2016年 同卒業、東北大学大学院工学研究科通信工学専攻博士課程前期入学。2018年 同修了、日本テレビ放送網株式会社に入社。技術統括局配属後、株式会社日テレ・テクニカル・リソーシズ制作技術センター制作技術部 音声に現職出向し、現在に至る。
自分のやりたいことをじっくり選択できる多くの選択肢と多様性に惹かれて東北大学へ。
高校時代の得意科目は数学、物理、化学という典型的理系分野。高校生の頃は就きたい仕事や目標は明確にはなかったのですが、働くことへの興味・意欲は非常に強く持っていました。
東北大学を目指したのは、「将来への選択の多様性があること」が理由です。
高校生の頃から自立したいという強い思いがあり、大学生になったら東京の親元を離れ、自分がやりたいことに色々と挑戦したいと考えていました。国公立大学を中心に検討している中で父親の出身大学である東北大学にふと興味を持ち、どんな学部があるのか、制度があるのかを調べてみると工学部の中だけでも5つもの学科、そして幅広い研究分野、歴史ある大学として安定した教育環境、グローバル分野にも長けていることがわかりました。また情報知能システム総合学科(現在の電気情報物理工学科)は学科の中でも複数のコースがあり、非常に多くの選択肢があることを知りました。将来何になりたいという明確な目標がなかったため、自分のやりたいことをじっくりと考え選択していきたいと考え、東北大学を目指すことに決めました。
大学院では音声対話システムの研究に没頭。研究は自分を成長させる大切な時間。
受験する段階で女子は少ないと理解していたので、工学部に女子が少ないことについて、正直心配はしませんでした。
入学してみると、学科の同期の女子学生は27人。ただし私のクラスには3人ほどしか女子がおらず最初は驚きましたが、時間とともに慣れていきました。同じ学科を選ぶリケジョの中には気の合う人が必ずいると思います。私自身、今でも一緒に旅行に行ったり、将来について相談したり、とても大切にしている友人がいるので安心してほしいです。
大学に入学し力を入れて取り組んだことは、学部時代は塾講師のアルバイト、大学院時代は研究です。
実は、学部入学当初は大学院に進学するつもりはありませんでした。実際に学部3年の時は就活も行っています。しかし就活を行う中で、大学院で研究を行う経験は非常に貴重な機会であり、自身を成長させる大切な時間だと気づかされました。そこで、「大学院での研究活動から得られる経験とスキルを存分に吸収するぞ!」という気持ちで大学院への進学を決め、音声認識、音声合成、音声対話、音声処理等の音・声・言葉を中心としたHCI(Human Computer Interaction)の研究室で、「音声対話システム」をテーマとした研究に没頭しました。
様々な価値観を知りたいと思い、留学生と積極的に交流。多様性の理解と視野を広げる。
東北大学では海外からの留学生と関わる機会が非常に充実していました。特に理系分野は国際発表や研究室に来る留学生等海外の人と関わる機会が多くあります。
実際に留学生と交流する中で様々な価値観に触れ、刺激を受けました。学部1年の時は留学生と共同生活を送る大学寮のユニバーシティ・ハウス三条に住み、そこで仲良くなった留学生と日本人メンバーで留学生の母国に旅行し、実家にまで泊めてもらいました。日本とは異なった生活スタイルや考え方を知り刺激を受けたことを覚えています。
また研究室のチューター制度で担当した留学生たちの母国に旅行した際には、帰国していた留学生と再会して一緒に旅行し、その国の食や文化を教えてもらいました。社会人になった今もタイの友人が日本に遊びに来る際に一緒にご飯を食べに行くなど、大切な関係は続いています。
留学生との交流の中で、自分にとっての当たり前は必ずしも他の人にとっての当たり前ではないと知りました。日本人だけでなく様々な国の人の考えや価値観を知りたいと思い、積極的に交流したことにより、多様性の理解と視野を広げることができました。
「自分が知らない未知の世界に飛び込んでみよう」とテレビの音声技術の道を選択。
就職に関しては、研究に関連した仕事を選択するか悩みましたが、技術力に限らず研究生活で身に付けたスキルを活かして新たな分野に挑戦してみたいと考えていました。そんな中、偶然のタイミングで日本テレビに応募したところ、そこで出会った人たちが非常に魅力的で、一緒に働いてみたいと感じました。そして、人生一度きりと考えたときに「自分が知らない未知の世界に飛び込んでみよう」と、現在の進路を最終的に選択しました。また、就活時はデジタル広告が急成長しており、テレビ局においての過渡期でした。そんなタイミングだからこそ、その変化に共に挑んでいきたいと考えました。
入社して技術統括局に配属された後、放送における技術業務を担う現職場に出向。現在はスポーツ番組などの中継業務を中心に、バラエティ・音楽番組、報道番組など様々な分野で音声技術を担当しています。音声さんというと出演者にマイクを付けることが一番イメージしやすいと思います。スタジオ業務ではその他にも、出演者やお客さんに音を聞かせるPA(Public Address)業務や、ミキサーとして出演者の声のレベルを調整する業務があります。中継業務では、例えばサッカー中継ではピッチにマイクをセットしたり、放送席の音声機材を整えたり、中継車のセットをしたりと様々です。他にもアイドルグループのライブ配信や交響楽団の収録等業務を行っており、非常にバラエティに富んでいます。また全日本大学女子駅伝は当社が放送を行っているため、実は毎年出張で仙台に行っています。経験を積み、オリンピックの業務を担当することが私の目標でもあります。
今起こっているみんなが注目していること、感動する出来事をリアルタイムで届けるやりがい。
この仕事では、今起こっているみんなが注目していること、感動する出来事をリアルタイムで視聴者に届けることができることに、非常にやりがいを感じています。
例えば、今年の箱根駅伝。私は移動車の一号車の音声を担当しました。一号車は先頭の選手を撮りつづけます。車には実況、解説、ディレクター、技術メンバー(スイッチャー、カメラマン、ビデオエンジニア、音声)が乗車しています。スタートからフィニッシュまで何が起こるかわからない状況で、みんなが注目している一瞬一瞬の場面について、たくさんの時間をかけて取材してきたアナウンサーの大切なコメント、沿道の声援や選手に声をかける監督のメガホンの声を届ける必要があります。失敗は許されません。もし、その解説の声が聞こえなかったら、選手に声がけしている監督の声が聞こえなかったら、素晴らしい場面を皆さんに届けられなくなります。生ものを扱うことは非常にプレッシャーがあり緊張しますが、放送を終えた後の達成感は言葉で言い表せないほどです。
日々の仕事は基本的に現場業務で、シフト勤務のため、一日の勤務時間はバラバラです。音声担当として複数人、それに加え、番組を作る制作担当者やカメラマン、ビデオエンジニア、照明、中継業務であればそれ以上に様々な人と話をしながら業務を行うので、コミュニケーション力が求められます。国際試合では海外のメディアの方も来られるので英語でやりとりする場面もあります。この点は大学生活・研究生活で培った人間力やコミュニケーション力が存分に生かされていると思います。
女性の割合は現場によって異なりますが、スタジオ業務は3~4割、中継業務だと1~2割です。技術統括局の女性は少ないですが、その分結びつきが非常に強く、相談もしやすい環境です。
(2023年3月)
女性で工学部出身というのは非常に希少価値が高く、存分にその貴重さを生かしてほしいです! 自分がやりたいことが見えてきたときに、工学部出身であることが壁になることはありません。むしろ後押ししてくれる方が多いと思います。教授も学生も、東北大学工学部には面白い人がたくさんいますよ。
東北大学進学となると一人暮らしをすることになるお子さんが多いと思います。一人で大丈夫かな、と心配になるかもしれませんが、一人で生活することで一回り成長してくれると思います。私も、一人暮らしすることで、一人で生きていく力がつきました。一人暮らしの学生が多いためみんなで支え合えると思うので、ぜひ優しく見守ってあげてください。