東北大×工学×女性×キャリア 未来への挑戦

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研究成果を会社の
知的財産に昇華させ、
世界でのビジネスへ送り出す。

杉山 享子さん
出光興産株式会社 先進マテリアルカンパニー 機能化学品部 事業企画課 知財チーム
2000年 千葉県立薬園台高等学校卒業、東京理科大学基礎工学部材料工学科入学。2004年 同卒業、東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻博士課程前期入学。2006年 同修了、出光興産株式会社入社。中央研究所(現在の次世代技術研究所)、知的財産部を経て、2022年7月より現職。

水素社会に貢献できる世界レベルの材料研究を目指して、東北大学大学院へ。

中学生の時、向井千秋さんが日本人女性初の宇宙飛行士としてスペースシャトルに搭乗しました。宇宙に行くことは怖いけれど宇宙環境や宇宙船に興味を持ち、高校2年生の時に当時の科学技術庁が企画したサイエンスキャンプに応募。航空宇宙技術研究所(現JAXAの前身の1つ)での合宿プログラムに参加しました。そこでスペースシャトルの表面にタイルが使用されていることを知り、CFRPというとても軽く強い材料の破壊実験を間近で見学して材料の魅力、面白さ、奥深さを知りました。

材料を広く学べる大学への進学を考え、東京理科大学基礎工学部材料工学科に進学。様々な材料を広く学ぶ中で、環境破壊への解決策としてクリーンエネルギーが注目されていることを知り、その一つである水素エネルギーとその貯蔵媒体となる材料である水素吸蔵合金に興味を持ちました。材料はこんな課題にも貢献できる、そう思いました。水素社会実現には、水素をどう運ぶかが大きな課題です。この課題に材料研究の観点から取り組んでいる大学はどこかを探していくと、東北大学の岡田研究室を見つけました。東北大学は材料科学分野で世界トップクラスの被論文引用回数であることも知り、ここで学びたいと強く感じました。

充実した指導と研究設備、研究への熱意に触れ、粘り強く研究する楽しさを知った東北大学時代。

研究室の研究分野は水素貯蔵材料で、私の研究テーマは「Li-X-N-H系化合物の合成と水素化特性(X=Na,Mg,Ca,Al)」でした。夜遅くまで実験や資料作成、先輩との議論や勉強会など力を入れて取り組み、分からないことだらけで悔しい思いをしながら必死に調べて、考える。そんな毎日を過ごしていました。

東北大学に来て感じたのは、研究への熱意と教育指導の充実、学会や論文投稿などの機会の多さ、研究設備の充実度や論文閲覧の自由度の高さ。東北大学は先生との距離が近く、日頃から何かと議論できる環境がありました。一流の研究をしている先生方は、研究に限らず様々な知識が豊富で、いろいろな話を聞かせてくださいました。また当時から博士課程後期への進学者も多かったため、先輩から教えてもらう機会もたくさんありました。先輩方が海外の学会に参加することも多く、研究の第一線にいるという実感を持つことができ、刺激になりました。

東北大学で成長したと感じる点は、例え頑張って良い結果が出なかったとしても、粘り強く考えていく大切さを知れたこと。想定外の一見失敗に見える結果でも、データを俯瞰し、理由をしっかりと考察すると見えてくるものがあることを学びました。

環境問題の解決を目指してエネルギー業界へ。まず研究者として。そして知的財産業務へ。

大学へ進学する際は、宇宙船に使える構造材料の勉強をするつもりでした。しかし様々な材料を学ぶ中で、環境問題に解決策を提案する機能材料に興味が移っていきました。環境問題を解決するためには化石燃料に頼り続けていてはいけない。そうなれば、当事者意識の強い業界はエネルギー業界であるはず、と考えました。所属していた研究室と出光興産とが当時、共同研究を進めており、新しい材料の研究開発をしていたことも大きな理由です。

入社して3年半、リチウム電池用固体電解質の開発を行いました。材料を合成し、分析・評価する研究の流れは、東北大学での研究経験がとても役に立ちました。その後、知的財産部へ異動し、特許出願や権利化を中心とする業務へとキャリアチェンジをしました。

米国出張(知財関係の裁判所前で)

昨年7月に機能化学品部に異動し、ここでも知的財産関連の仕事をしています。対面の打ち合わせだけでなく、チャットやメール、オンラインミーティングなどで頻繁にやり取りをしながら、業務を進めています。また、当社の特許は世界中で成立しており、社外の関係者とも連携しています。特許事務所や各国の代理人と密に連絡を取りあい、グローバルなネットワークを構築しながら働いています。

勤務場所は、東京オフィスに週1回、研究所に週2回ほど出社し、残り2日は在宅勤務をしています。家事育児との両立を考えると私にとってちょうど良い環境です。勤務時間はコアタイムなしのフレックス勤務で、8時半~17時を中心にしています。子どもの習い事や学校行事などがある場合は、勤務を中抜けするなど柔軟な対応ができています。

研究者目線で研究成果を理解しながら、価値を最大化していく知的財産業務。

知的財産業務における大切な機能は、研究者の研究成果を発明としてとらえ、特許化していくこと。そのためには研究者目線に立って、研究成果を理解する必要があります。どんな実験をしたのか、この結果から何が読み解けるのか、データを見比べてどこがポイントになるのか。研究者との会話から整理していけるのは、東北大学で研究に取り組む中で、様々な考察や議論を行うことを通じて基礎を築いてきたからこそだと思います。

知的財産業務の面白さは、その幅の広さ。研究者として勤務していた時は、自分の研究に特化し、知識と経験を積み、製品化に必要な性能の向上を目指していました。一方、知的財産業務では、一人で複数のテーマを担当することが通常であり、多くの関係者から話を聞いて、会社の資産である知的財産の価値を最大化するために必要な戦略を立てていきます。研究内容も理解しつつ、その研究の成果が商品化されて市場に出回るビジネスの内容も理解しておく必要があります。どの国で何がどの程度売られるかを把握し、他社に研究成果を真似されないために特許として権利化しておくなどの対応が求められます。研究や技術だけでなく、ビジネスの知識や経験も積んでいけるところがこの仕事の魅力だと思います。

キャリアは柔軟にコントロールするもの。家事育児と両立し、自分らしく経験を重ねたい。

当社は、経営の重点課題の一つに「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の実践」を掲げています。女性社員だけでなく男性社員も育児休業を取得しており、取得率も向上しています。会社全体に育児をしながら働くことが普通であると思える風土が育まれていると感じます。育児休業からの女性社員の復職率は2019年より3年連続で100%です。短時間勤務やテレワーク勤務も浸透し、柔軟に働ける制度が整っていると感じます。

私の家族構成は、夫と小学生の娘2人の4人家族。家事育児はすべて一人ではできないので、夫と協力しながら回しています。効率よく進められるように家庭内の小さな工夫を積み重ねながら、ストレスがなるべくかからないようにしています。

キャリアは、常に“アップ”を目指すものではなく、柔軟に“コントロール”するものだと感じています。今、目の前にある仕事をしっかりと、そして自分らしく取り組んでいくことが将来につながると思っています。生活のほとんどを仕事にかけられる時期と、育児などとの両立が必要な時期、それぞれの時期でこなせる量は違っても受け持った仕事は自分の仕事だと胸を張って言えるように、経験を積んでいきたいと思います。

当社はエネルギー・素材の企業で、カーボンニュートラル社会に貢献するメインプレーヤーを目指しています。カーボンニュートラル社会へ貢献する技術の一つとして次世代航空燃料などにも取り組んでいるため、いずれ高校生の時に憧れた宇宙の仕事に関われるかもしれません。そして、いずれ仕事に打ち込める環境が整えば、次に続く後輩たちを支える存在になりたいです。

高校生のあなたへ

工学部で学び、その知識と経験を基盤として働くことは、“あなただからできた”と言われる仕事の楽しさを感じられるのではないかと思います。

企業では多くの社員が歯車になって働くイメージがあるかもしれません。ただ、その中にも他には代えられない歯車があります。高い専門性を武器に働く工学部出身女子は、「あなただからできた」といわれるキラッと輝く仕事ができると思っています。会社の方向性を大きく変えるキーパーツになれるかもしれません。それが工学部へ進学することの価値ではないかと思います。

保護者の皆さまへ

自分の娘を育てていく中で、娘たちは自分とは違う感性を持ち、少ない経験の中でも一生懸命に考えていると感じます。親から見ると危なっかしい判断と感じることもありますが、自分で決めたことであればその分だけ得るものも多いようです。自分の選択であれば頑張れるし、納得して歩んでいけると思っています。大学の進路選択は大きな節目だからこそ、本人の意思が大切なのではと思います。ぜひ温かく見守ってあげてください。

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