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東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE

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「海岸工学」で世界を守る女性研究者の挑戦

「海岸工学」で世界を守る女性研究者の挑戦

有働 恵子 准教授

東北大学工学部 建築・社会環境工学科 水環境デザインコース

東北大学 災害科学国際研究所 災害リスク研究部門 環境変動リスク研究分野

 

目標が定まらなかった大学時代

私が砂浜の研究を始めたのは、大学院に入ってから。子供の頃のなりたいものは、幼稚園の先生から花屋さん、ケーキ屋さん、学校の先生…とコロコロ変わり、高校生のときは周辺の影響で何となく医学部志望だった。しかし、適性検査で工学部が向いているという判定が出て、工学部に変更。このような感じで大学に入ってからも、これといってやりたいことは定まらなかった。そして、大学院へ。子供の頃から志したようなものはなく、流れに流されて大学時代までを終えた。ただ、学部4年生のときに卒論をまとめて、一つだけわかったことがあった。それは、1つのことを突き詰めて考える「研究」が好き、ということ。大学院に進むとき、指導教員が定年退職したため、指導教員が変わった。そのときに「砂浜」がテーマになり、「海岸工学」の分野に足を踏み入れた。

たまたま出会った
「砂浜」という研究対象

あれから、20年。研究テーマは多少変わりながらも、何かしら砂浜に関連する研究に取り組んできた。砂浜は、波のエネルギーを弱めて災害のリスクを減らしたり、豊かな環境を育んだり、海水浴などのレジャーを提供してくれたりする重要な空間だ。しかし、波や風で絶え間なくその地形は変化し続ける。河川から海に流れてくる土砂の影響もうける。戦後の急速な国土開発・国土保全の影響で、河川から海に供給される土砂が激減し、砂浜は既にかなり侵食してしまっているが、今後気候変動の影響などでさらに進行すれば、沿岸域の災害リスクが高まり、環境・利用面への影響も大きい。将来、どの程度砂浜は侵食されてしまうのか、そしてどの程度災害による損失が生じるのか、評価手法を開発することも重要な研究テーマだ。この20年の中で、自身の研究を大きく発展させる契機となったのは、10年前からの気候変動の砂浜への影響評価・適応策提案の大型プロジェクトへの参画だ。全国の過去の砂浜侵食状況を明らかにして、そのメカニズムの解明に取り組み、適応策立案のための研究に携わっている。

妊娠と重なった
2011年東日本大震災

2011年には東北地方太平洋沖地震・津波により、仙台平野でも甚大な被害が発生。自身も妊娠中に大学の研究室で被災。全国の海岸工学の研究者たちが協力して沿岸域の被害状況の現地調査を行う中、被災地の中にあって何もできずに過ごした。初めて被災地を訪れたのは、1か月がたった4月になってから、プライベートで遠くから見るだけ。女性として大きなイベントの1つである妊娠・出産が、研究を行う上で大きな制約となることを初めて実感した。しかし、自分にもできることを考え、衛星画像などを駆使した解析により、2012年には自分の代表作の一つといえる研究論文を発表することができた。この論文は、今でも私が第一著者として発表した論文の中で、最も他の研究者から参考にされている論文となっている。

子育て期になって
キャリアを積む多くのチャンスが到来

私が出産したのは、准教授に昇任した翌年の2011年だった。そして、産後3か月弱で職場復帰した。震災もあったので、色々なことを総合的に考えて最善の選択だったと今は思っているが、当時は仕事も子育ても両方とも中途半端になってしまうのではないかと大きな葛藤があったことも事実だ。子供がいなかった20代~30代前半のように、自分のことだけを考えて仕事に打ち込むことはできないから、時間の制約はある。出張もなかなかできなくて、チャンスを生かせず残念な思いをすることもあったけれど、オンとオフの切り替えができるようになって、豊かな時間を過ごせるようになったとも思っている。子供の行事にはほぼすべて参加したし、子供が保育園に行きたくないといったときには、公園に寄り道して遊んでから送っていったこともあった。振り返ってみれば大きな問題なく過ごしてこられたと思う。
そして、曲がりなりにも経験を積むにつれて、学会や行政の委員会などの、より重要な役割が回ってくるようになった。時間的にも精神的にも余裕はないし、自分に務まるのか自信がもてない仕事も回ってくる。でも今は、男女共同参画の講演会などでもよく聞く「女性は自己評価が低い傾向にある」という言葉を頼りに、「今は思うようにできないかもしれないけど、頼む方だって絶対できない人には頼まないんだから、私に務まると見込まれて頼まれたんだ。何事も経験!」と思って引き受けるようにしている。これが結果的にいい方向に進んでいる。2017年には、もう無理だろうなぁと思っていたオランダでの長期在外研究を経験できた。共働きで子供がいても、チャンスを生かせる制度が整ってきていると感じている。

工学を目指す人へのメッセージ

大学時代までなかなか目標を定められなかった私が、こうやって自分が打ち込める研究に出会って、ここまでやってこられたのは、工学に幅広い研究テーマと研究手法が存在するからだと思っている。工学では「社会の役に立つ」が重要なので、いかにも理系!な研究だけでなく、人を対象とした文系的な研究もある。だから、比較的容易に何かしら自分に合うものを見つけることができる。そして、この「社会の役に立つ」は研究の大きなモチベーションにもなる。あなたにも、是非この「社会の役に立つ」学問を学ぶ工学部で、新たな未来の創造に貢献していってほしい。

PROFILE

有働 恵子 准教授|うどう けいこ

東北大学工学部 建築・社会環境工学科 水環境デザインコース
東北大学 災害科学国際研究所 災害リスク研究部門 環境変動リスク研究分野

熊本県出身。1994年、熊本高等学校卒業。1998年、筑波大学第三学群基礎工学類卒業。2003年、筑波大学大学院工学研究科構造工学専攻において博士課程修了。独立行政法人港湾空港技術研究所海洋水工部漂砂研究室研究官、2006年東北大学大学院災害制御研究センター助教、2010年同センター准教授を経て、2012年より東北大学災害科学国際研究所准教授。2017年オランダUNESCO IHE-Delftで在外研究。現在の研究課題は「気候変動の影響を考慮した流域の土砂移動に関する研究」。2001年第56回土木学会年次学術講演会優秀講演者表彰、2015年インテリジェントコスモス奨励賞受賞、2018年Coastal Engineering Journal Award 2017受賞、2019年JAMSTEC中西賞受賞。趣味はテニス、将棋、ピアノ。

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