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東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE

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#3

安定で扱いやすい微粒子材料の開発を目指して

安定で扱いやすい微粒子材料の開発を目指して

渡部 花奈子 助教

東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 プロセス要素工学講座 材料プロセス工学分野

 

最近、「ナノ粒子」や「ナノテクノロジー」という言葉をよく耳にしませんか?「ナノ」は大きさの単位であり、私たちの目では見えないほどの小さな大きさです(1ナノメートルは1,000,000,000分の1メートル)。私は、数ナノメートルから数百ナノメートルの「微粒子」を使った材料に関する研究をしています。ミリメートル以上の材料というのは安定で使いやすく、私たちの日常生活において広く利用されています。ナノメートルスケールの小さな材料(微粒子)は、ミリメートル以上の材料には現れない様々な特性を示します。光学特性や触媒活性、センシング特性などがその例です。しかし、微粒子は極めて不安定で熱などの外力をかけると微粒子同士が合一し、微粒子としての特性を失います。不安定で扱いにくい微粒子は、「実用化が難しい未来材料」というように呼ばれることもあります。これを受けて私は、安定で扱いやすい微粒子材料の開発を目指し、日々研究に励んでいます。

オランダの大学と
共同で進めた卵型粒子の研究

安定な微粒子材料を開発するために私は、卵のような形の微粒子(卵型粒子)を集めた新しい材料構造を提案しました。卵の黄身に相当する微粒子を、殻に相当する中空のシェルの中に閉じ込めることで、微粒子を安定に保つことに成功しました。また、閉じ込めた微粒子が液体を満たしたシェルの中で自由に動くことを証明しました。さらに、卵型粒子の集合体に電気などの外的な刺激を与えると、閉じ込めた微粒子の運動や配置がシェルの中で変化することを世界で初めて発見しました。一般的に1つの材料から得られる特性は1つに限定されていますが、卵型粒子の集合体を利用すれば、与える刺激の種類や強弱によって多様な特性が得られる画期的な材料が開発できると考えています。

シェルの中に閉じ込められた微粒子の動きが、外的な刺激を与えることで変化することは、研究を始めた当初は予想していませんでした。私の専門は化学ですが、その微粒子の運動を引き起こしている要因を解明するためには物理学の知識が必要だと感じ、現在は物理学も専門としているオランダの大学と共同で研究を進めています。なぜ電気をかけると微粒子の運動が変化するのかを解明できれば、シェルの中での微粒子運動を正確にコントロールすることに繋がり、開発した材料の応用の幅も広がると考えています。

海外の研究機関との共同研究は、とても刺激的です。話す言語も、研究に対する考え方も、研究の仕方も違うので、常に新しい発見があります。分野の違う研究者とディスカッションすると、自分の凝り固まった考えを改めさせられます。今後も国や分野を超えた共同研究を進めていき、安定で扱いやすい微粒子材料の実用化を目指したいと思います。

研究・教育者としての
道を選んだきっかけ

ここまで読み進めた方の中には、私が昔から研究者を目指していたと思われる方も多いと思いますが、そんなことはありません。高等専門学校時代、また大学に編入学後は、平日も土日もアルバイト三昧でした。多い時で3つのアルバイトを掛け持ちしていて、1日に複数のバイトをはしごすることもありました。そんな優等生とは言えなかった当時の私は、もちろん博士課程に進学する気は全くありませんでした。そのため、進学を決意した際には周囲に大変驚かれたことを覚えています。私が博士課程に進学し、そして大学で研究を続けたいと思うようになったのは、後輩への研究指導にやりがいを感じたからです。特に博士課程在学中は、常に10名以上の後輩の研究指導をしていました。自分の研究成果も求められる中、数多くの後輩の指導をすることは時間的制約が大きく、負担となることも多々ありました。特に、博士論文を執筆しながらの卒業論文・修士論文の指導が大変だった記憶があります。それでも、指導した後輩の皆さんが成長し、そして今では立派に社会に出て活躍している姿を見ることに喜びを感じています。教員となった今でも、その思いは変わっていません。大好きな研究もできて、そして学生さんの成長も見届けられる、こんな最高な仕事はないと思っています。今後も自分の研究者としてのキャリアアップはもちろん、学生の皆さんの成長の一助となれるよう、頑張っていきたいです。

英会話習得を機に変化した研究生活

海外共同研究や海外での学会発表のためには、英語が必須となります。私は博士課程に進学を決意した、修士課程1年の冬から本格的に英会話を始めました。といっても、英会話教室に通ったわけではなく、スカイプなどで毎日約30分間、海外の先生とお話しする「オンライン英会話」を3年間続けました。初めは先生の言っていることが全く分からず何度も辞めようと思いましたが、半年くらい続けてみると自然と英語が聞き取れるようになっていました。初めて受けたTOEICテストは400点でしたが、今では900点を超えるまで成長しました。英語を話せるようになってからは、共同研究も大幅に進み、学会発表でも困ることがなくなりました。また、外国の方々との交流も不自由なくできるようになったことで、様々な国の文化を自分自身で学べるようになりました。特に、オランダで、結婚して子供もいる中で活躍している女性研究者が当たり前の文化に感銘を受けました。オランダは男女平等の意識が強く、大学の教員、学生共に男女の割合に大きな差はありません。日本でも近い将来、男性も女性も関係なく働き、子育てをすることが当たり前になるのだろうと思い、勇気づけられたことを覚えています。

私にとって、研究活動を通して様々な国に行けることは大変魅力的です。その国でしか見ることのできない景色を見て、その国の人々と議論する。そんな贅沢な経験を日々しています。プライベートでもよく海外旅行に行くのですが、日本の外に出るたびに「自分はもっと自分らしくいていいんだ」と感じます。日本では、人と違うことをすることに抵抗を感じる人が多いと思いますが、海外の人は周りの目を気にせず自分の意見を言い、のびのびと生活しているように思います。その文化が、優れた研究成果にもつながっているように感じます。そんな個性を尊重する文化が心地よくて、私は海外に行くのが大好きです。

工学を目指す人へのメッセージ

一言で「工学」といってもその分野は様々です。人々の生活を豊かにする製品を生み出すための工学、人々の安全を守るための工学、人々の健康を守るための工学など現代における工学の幅は広がってきています。すべての「工学」に共通することは、皆さんの生活に役立つモノを創り出すための学問であるということです。私は、大学で学ぶ工学は非常に意義のあるものであると考えています。なぜなら、大学ではモノづくりの基盤となる基礎研究と、実際のモノづくりの両方ができるからです。皆さんの身の回りにある全てのモノ(電化製品や食料品、医療品など)は工学と密接に関わっています。将来、自分の生み出したモノが世界中の人に使ってもらえるようになったら、素敵だと思いませんか?

工学部は女性が少ないとよく言われますが、女子学生の割合は少しずつ増えてきています。女子学生の皆さんは「私以外に女子がいなかったらどうしよう」と思うこともあるかと思いますが、心配しなくても大丈夫です。また、これからの時代、学問に性別は関係なくなってくると思いますし、男女比を気にすることも時代遅れになるでしょう。自分が学びたいと思ったら、その気持ちを大事に、周りに流されることなくその道に進んでください。少しくらい失敗したって、やり直せます。その失敗も皆さんの人生の糧になりますので、思い切って自分のやりたいことを「自分らしく」やってみましょう。

PROFILE

渡部 花奈子 助教|わたなべ かなこ


東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 プロセス要素工学講座 材料プロセス工学分野

宮城県名取市出身。仙台高等専門学校情報デザイン学科を卒業。高等専門学校では情報系の研究に取り組んでいたが、化学を学びたいと強く思うようになり、分野転向。東北大学工学部化学・バイオ工学科へ編入学。同大学大学院工学研究科化学工学専攻にて博士前期課程および後期課程に進学。微粒子材料およびその作製プロセスの開発が専門分野。2016年からは日本学術振興会特別研究員(DC1)として研究活動を行う。2019年3月に博士号取得し、同年4月から現職。2019年に「第9回日本学術振興会 育志賞」、「第14回ロレアルーユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受賞。趣味は海外旅行。これまでに20か国以上に滞在。タイの旧正月で行われる“水かけ祭り”に参加したことが一番の思い出。

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