#17
光り輝く革新的変換材料で未来社会を照らす
徐 超男 教授
東北大学大学院工学研究科 材料システム工学専攻
東北⼤学は、⽇本で初めての⼥⼦⼤学⽣が誕⽣し、今年で⼥⼦学⽣⼊学110 周年を迎えました。私は「⾨⼾開放」・「研究第⼀」・「実学尊重」の理念に共鳴し、今年の4⽉に産業技術総合研究所から東北⼤学に移籍しました。⿂が⽔を得たような気分で、ともに未来を創ろうと期待に胸を膨らませています。
私は中国東北の瀋陽市に⽣まれ、⽗は中国の東北⼤学出⾝のこともあり、仙台の東北⼤学に特別な縁を感じています。東北⼤学では、「多元変換機能システム分野」を⽴ち上げ、社会変⾰をもたらす⾰新的材料開発を⽬指して研究室をスタートさせました。⽬標は、世界初の⼒学・電気・光の多元変換機能を発現する学問領域の開拓と、世界ナンバーワンのハイパーマルチピエゾ体の創出です。ハイパーマルチピエゾ体とは、巨⼤なピエゾ効果(圧⼒をかけることで電圧を発⽣させる効果。圧電効果)と⾼度な発光機能を同時に備えた、全く新しい材料です。研究では多成分の組成を巧みに融合させて、多相境界を制御した結晶によるマルチ機能のシナジー効果を狙っています。機能材料の研究開発では、1+1が2になれず、互いに邪魔して1よりも⼩さくなることがよくありますが、異なる機能体を有機に融合できれば、単独では到底成し遂げられない機能が発現され、巨⼤な機能実現ができます。これは多様な⼈材を活躍させる社会を彷彿とさせます。1+1が2以上となる無限の可能性を、研究にもこの社会にも感じています。
研究者になるきっかけ
幼い頃から好奇⼼旺盛な⼦どもで、貰った⼈形やミニチュアのミシンなど⾼価な玩具を分解したり組み替えたり、奇想天外な発想で遊ぶことで知られていました。近所の⼤⼈たちから信頼され、⾃分よりも年上の⼦供たちともよく遊んでいました。中学⽣の終わりの頃に⽂化⼤⾰命が終息し10年間⽌まっていた⼤学⼊試が復活して、⾼校⽣から本格的に勉強を始めました。暗記ブームの中、私は問題集も宿題もせず、理論や概念といった科学の基本的な考え⽅に、まるで仙⼈になったかのような気分でワクワクしていました。物理や哲学の先⽣たちからは、先⽣も考えていなかった深い考察ができる私は天才だと賞賛されて、伸び伸びとできました。好奇⼼を尊重され、ワクワクしながら成⻑できたことを、先⽣たちに感謝しています。これらの経験が今の研究者の道へとつながっていると思います。
⾃分の経験から、個性を尊重する理念を、⼦育てや教育研究にできる限り徹底させています。次世代の若者には、対等の雰囲気の中で失敗も成功も経験させ、社会変⾰の挑戦型⼈材を育てたいと考えています。短気でも焦らず、失敗しても⾃分を信じ、未来を創っていく多種多様な⼈材を多く育てたいと思っています。
研究の四季論
研究は⼈⽣と同様、常に変化がつきものです。研究の種をまいたものが萌芽し、成⻑し、応⽤研究や社会実装を経て成⻑していく様を、私は、研究は冬、春、夏、秋という四季を巡りながら進化していくと考え、研究「四季論」と名付けています。
私の研究室では現在「ハイパーマルチピエゾ体の創出」に挑戦しています。これは「四季」の冬から春の季節に相当します。マルチピエゾ体は⼩さな⼒で感度良く、かつ安定した発光を実現することができるため、国際的な関⼼を集めています。研究室では第⼀原理計算や合成実験、計測解析評価など多⽅⾓的なアプローチで、社会変⾰に資する新しい学問と⾰新技術の開拓を⽬指しています。夏と秋の季節に相当する応⽤研究や社会実装では、世界初の応⼒発光技術の応⽤と実装を進めています。研究は世界にないものを創り出すので、挑戦と失敗がつきものです。しかし、挑戦し続け、思いがけない結果が出れば、それが次の進化へのヒントとなります。
私は研究者として多くの「研究の四季」を体験してきました。昔の卒論や修論では指導教授も知らない領域に挑戦し、迷⼦になりながらも最終的には⽬標のデバイス設計に⾄るパラメーターを⾒つけ出しました。その後は、ナノ粒⼦サイズ効果の発⾒や応⼒発光体の発明など、研究を常に進化させ続けてきました。
⼯学研究は広範で社会と密接に連動しているため、科学技術だけでなく、社会・経済・産業の仕組みまでを変え、社会変⾰をもたらす可能性があります。そんな研究の『四季折々の姿』が、⾔葉に表せない感動を与えてくれます。
ハイパーマルチピエゾ体は巨⼤な圧電効果と⾼度応⼒発光機能を発現でき、⾰新的なセンサやロボット、新光源など、未来のAI・IoT 社会に貢献することが期待されます。
⽇々の暮らし・感動と感謝
仙台での⽣活はあっという間に半年以上が経ちました。毎⽇新しいことでわくわくし、学⽣さんをはじめ、すべての出会いに感謝しています。休⽇には周囲の⼭や町に出かけ、美しい⾵景やおいしい⾷事、お祭りや⾳楽祭、博物館などを楽しんでいます。常に予測できない感動があり、また気分転換にもなっています。写真は九州から仙台に⾞で移動してきた途中に訪れた三春町の滝桜です。東北だからこそ、千年も桜が元気でいられることに感慨深いです。
これまでの⼈⽣は様々なご縁に⽀えられています。両親は⽂化⼤⾰命の時期に農村で働かされ、設計院や研究院の管理職を転々としていたため、祖⽗⺟に育てられました。電気・ガス・⽔道がなく、病院も幼稚園もない状況で、3歳の頃から⼩学校1年⽣の授業を聴講し、危険な場⾯も経験しました。中国の隅から隅へと何度も引っ越しし、⼩学校で6回転校。⾔葉もわからない中での苦労もありましたが、それらの経験は貴重なものとなりました。
今⽇で⼈⽣が終わっても悔いがないかと⾃問⾃答し、⼆度とない今の時を感謝と感動⼀杯で⽣きることにしています。
⼯学を⽬指す⼈へ
「理学は学問」「⼯学は発明」とよく⾔われますが、明確な境界はなく、⼯学も学問と発明の両⽅にかかわります。⼈類の⽣活に役⽴つ技術を発明し、未知の優れたものを実現するのが⼯学です。社会問題を解決し、変⾰をもたらす技術を発明して役⽴つものを⽣み出すのが⼯学の魅⼒です。⽇本の⼯学分野における⼥性の⽐率は極端に少なく、先進国の中で最下位に位置しています。これは⼥性が⼯学に向いていないからではなく、社会的な慣習に影響されていると考えています。実際、⼯学は⽣活に密接に関わるため、⼥性に制約はないどころか個性が⽣かせると思います。私の娘たちも⼯学に進み、PhD を経て研究者として⼈⽣をエンジョイしながら夢を追い求めています。
⼯学の道を進むことで、多岐にわたる産業に触れ、様々な研究開発の課題に恵まれ、選択肢も広がります。発明によって社会変⾰をもたらす⼯学に興味があれば、積極的に進んでいくと、やりがいと夢が広がります。新しい多様な⼈材が活躍できる社会の構築に向けて、挑戦を続けましょう。少⼦⾼齢化が進む中で社会変⾰の最良のチャンスが訪れていると認識し、現状を打破し、イノベーションを加速させるためにイノベーティブな⼈材を育成しましょう。世界に通⽤するチャレンジャー、⼥性を含む多様な⼈材を育て、活気ある社会を早期に実現させましょう。