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東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE

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#18

私たちの生活に多くの影響を与える小さな発見

私たちの生活に多くの影響を与える小さな発見

Ellen 特任助教

東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻

 

カリウムイオン: 必須栄養素と農業発展の追求

皆さんも、植物の葉の縁が黄褐色に変色していることに気づいたことがあるかと思います。これは栄養不足、特にカリウム不足の兆候です。カリウムイオン(K+)は、人間、植物、バクテリアなど、さまざまな生物の細胞内に最も多く含まれている元素であり,健康維持に欠かせません。特に植物界では、カリウムイオンは動物における心臓と肺の両機能を担う気孔の開閉を制御する上で極めて重要な役割を担っており、成長にとって極めて重要で、最終的には作物の生産性に影響を与えることになります。

世界の人口が急増する中、食料安全保障(食料の安定供給)を確保するためには、米、小麦、トウモロコシといった主食作物の生産性が重要です。そのため、植物におけるカリウムイオン輸送の研究は不可欠で、将来の農業の発展に大きな影響を与える可能性があります。カリウムイオンは土壌から供給されますが、カリウム輸送体はその導管として働き、植物細胞への浸透を促進し、生命機能を支えています。

私の研究では、バクテリア、菌類、植物にまたがって見られるカリウム輸送体のうち、あるグループを詳細に調べています。DNA組み換え技術を活用して植物の輸送体をバクテリアや酵母に組み込み、特性の解析や初期同定プロセスを効率化しています。得られた知見は研究室の枠を超え、さまざまな生物体内でカリウムがどのように移動するのかを包括的に理解することができます。

この研究により、カリウム欠乏環境でも生育できるように植物を遺伝子組み換えして、農業の生産性と持続可能性を高めることができる可能性が開かれます。科学的研究と実用化のギャップを埋めることで、カリウムイオンの研究は、より強靭で生産的な農業の未来を追求する上で重要な役割を果たすことになるでしょう。

SFを現実に: DNA組み換えの世界を解き明かす

私がバイオテクノロジーの世界に足を踏み入れたのは、2000年代初頭に放映されたSF映画の名作『X-MEN』がきっかけでした。驚異的な能力を持つミュータントたちの魅惑的な物語が、私のDNA組み換え領域への興味に火をつけました。

高校卒業後、私は大きな試練に直面しました。インドネシアではバイオテクノロジーやその関連分野が盛んでなかったのです。大胆にも、私は東北大学の大学院に入学して、自分の情熱を追求することにしました。日本語が不自由であったにもかかわらず、私は粘り強く努力して夢を追い続けました。振り返ってみると確かに大変な挑戦でしたし、その間、ずっとサポートしてくれた教授や研究室の仲間に感謝しています。

この新しい環境で、私はDNA組み換え技術の追求に没頭しました。私の実験は、X-MENのような突然変異体を生み出すには至りませんでしたが、私の夢の実現には少し近づくことができました。複雑な多重変異体の作製に成功し、私が研究していたタンパク質の実験で使えるようになったときの高揚感を鮮明に覚えています。

大学院ではカリウム輸送体の研究に専念し、バクテリアや酵母、植物におけるその役割を調べました。これらの輸送体は、細胞の平衡状態と多様な生物の成長に不可欠です。私はさまざまな領域にわたって、そのメカニズムと潜在的な応用を丹念に研究しました。大腸菌KUPに関する最初の論文で、K+欠乏時にセシウムイオンを利用する能力を明らかにし、カリウムが制限された条件下での代替物の可能性を提示したことは、私にとって特筆すべきマイルストーンとなりました。

現在は研究対象を、シロイヌナズナのタンパク質ライブラリーのスクリーニングに移し、植物において未発見のK+輸送体を見つけようとしています。この研究は、根、芽、そして全ての細胞にまたがる複雑なK+輸送システムの理解を深めることを目標としています。

研究者として、バイオテクノロジーと遺伝子工学を発展させるという私の決意は揺るぎません。SF映画の世界からDNA組換え研究へと分野は変わりましたが、私のこれまでの経歴は、決断と好奇心、そして工学やバイオテクノロジーの発展への献身に象徴されると感じています。

研究の発展:持続可能な未来を共に築く

生体分子工学の世界に足を踏み入れるということは、複雑で入り組んだ旅に出るようなものです。絶えず変化する生き物のニーズに対応し続ける必要があり、実験の予定を中心にスケジュールが組まれるため、常に調整が必要ですし、揺るぎない努力が求められます。生体分子工学分野の研究は複雑で、綿密な最適化とたゆまぬ努力が要求されます。大きな壁に直面することもありますが、そこで学んだ過程はかけがえのないものです。

『私は失敗してはいない。うまくいかない方法を1万通り見つけただけだ』というトーマス・エジソンの実験哲学に、私はとても共感します 。この言葉には実験の本質が凝縮されています。実験は結果だけでなく、その道のりや失敗から学んだ教訓も重要なのです。

私の第一の目標はシンプルで、生体分子工学の研究を活かして農業を発展させ、持続可能な食料生産を促進することです。これは、個人的な目標にとどまらず、効率的な農業の実践を通じて、食料安全保障や環境問題といった重要な問題を含む、もっと広い目標です。

さらに私は、共同研究を通じて、母国インドネシアと日本の架け橋になることを目指しています。私は、インドネシアの優秀な学生たちが日本の最先端技術にアクセスできるような、シームレスな知識の交換を思い描いています。交流は、彼らの教育経験を豊かにし、両国の利益に貢献することができるでしょう。

これらの目標を追求し、私はインドネシアと日本の農業生産を向上させて、食料安全保障の確保という世界的な課題に貢献したいと夢見ています。決意と粘り強い努力、そして協働を通じて、私たちはより持続可能な未来に向かって努力しています。その道のりは険しいかもしれませんが、前向きな変化をもたらす大きな可能性を秘めています。複雑な生体分子工学の世界を進む私たちは、単なる研究者ではなく、グローバルな協力と知識の共有によって、より明るく、より強靭な未来への道を切り開く、持続可能な明日を作る設計者なのです。

Harmony in Diversity: 研究と世界を探検する

朝早く、私の一日は朝7時半から研究室で実験を取りまとめて、大学院生の研究指導にあたることから始まります。毎日9時半から10時のミーティングは、進捗状況を共有し、共同で問題を解決するための重要な場となります。私は率直なコミュニケーションを心がけているので、オープンな雰囲気を作ることに繋がり、学生たちは安心してくれているようですが、私の海外からの視点に影響されている部分もありそうです。

研究室の外では、仙台国際まつりのイングリッシュ・カフェでボランティアをするなど、さまざまな創作活動にも積極的に参加しています。子どもたちを中心とした地元の人たちと関わることは、知識を共有するだけでなく、交流を通じて日本文化を知る楽しい機会にもなっています。

長期休暇になると、私の関心は旅行へと移ります。日本の多様な風景を探索することは、リラックスすると同時に、とてもやりがいのある挑戦になります。母国には遠くて頻繁には帰省できないので、日本国内を旅行して、郷土料理や歴史から交通手段まで、日本について学んでいます。外国を一人で旅するということに、困難がないわけではありませんが、自立心を養い、世界をより深く理解するのに役立っていると実感します。

研究の厳しさと、創造的探求や冒険の世界の両方を行き来することで、私は自分の情熱が調和して、私らしい充実した人生の旅を築けていると感じています。

明日のエンジニアに力を: 高校生へのメッセージ

工学を志す高校生の皆さん、工学において男性が優位であるという固定概念に落胆しないでください。私の経験から、特に生体分子工学の分野では、女性は優れた長所を持っていると感じています。女性には、細部へのこだわりや、生物を育てることに積極的に取り組める傾向があり、これはこの分野では非常に貴重な資質です。もし将来の進路に不安があるのなら、身近であなたの興味を引くシンプルなものを観察してみましょう。ありふれた普通に見えるものも、あなたの人生や世界にとてつもない影響を与える可能性があります。

工学は、単に複雑な方程式を扱うものではなく、創造性と問題解決能力を応用して変化をもたらすものです。小さなイノベーションが、大きな影響を与えているのです。情熱を持ち続け、多様性と斬新な視点が工学では歓迎されていることを忘れないでください。粘り強い努力、好奇心、そして回復力があれば、世界に足跡を残す実りある旅に出ることができます。あなたの可能性には限界はありません。エンジニアリング・イノベーションの無限の世界へようこそ。

PROFILE

Ellen 特任助教|エレン


東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻

インドネシアのジャカルタ出身。ペリタ・ハラパン大学で学士号を取得。2年半リサーチ・アシスタントとして経験を積んだ後、2014年から文部科学省外国人留学生奨学金を受けて東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻に留学し、修士号・博士号を取得。
2016年に日本生物工学会 生物工学学生優秀賞(飛翔賞)を受賞。2019年から日本学術振興会特別研究員DC2として研究活動を行う。
2021年4月から現職。

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