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東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE

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#13

ことばがわかるコンピュータをつくる

ことばがわかるコンピュータをつくる

赤間 怜奈 助教

東北大学 データ駆動科学・AI教育研究センター
東北大学大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻

 

人間のことばを用いて、人間と同じように対話をする──このようなコンピュータの実現は、古くから考えられてきた人工知能応用の理想のひとつです。「自然言語処理」と呼ばれる私たちの研究分野では、人間が日常的に使っていることば(自然言語)を上手に扱うための計算機構の構築や、それらを支える基礎技術の開発に取り組んでいます。

はじまりは一冊の本

「人工知能」という存在に興味を持ったきっかけは、小学生の頃に出会った児童書でした。そこで描かれていた “歌って踊れる世界最高の人工知能” は、人間のことばを流暢に扱い、人間のような感情と思考回路を持ち、そして人間よりも遥かに物知りで頭の回転が速い知的な存在でした。圧倒的な速度と精度で膨大な情報を処理し、必要な情報を的確に伝えることで、世界一の怪盗を鮮やかにサポートするその人工知能が強烈に格好良くて、何も分からないまま人工知能というものに憧れました。研究者となり人工知能技術の現状を知ってなお、この憧れは強くなるばかりです。今直面している課題をひとつひとつ解いたその先には憧れの人工知能に出会う未来があると信じて、日々研究に励んでいます。

研究者になるということを現実的な選択肢として考え始めたのは、博士課程に進学してからです。目の前の物事に一心不乱に取り組むことは得意なのですが、数歩先を具体的に考えることは昔からどうにも苦手でした。大学で研究を続ける道を選んだのも「そろそろ博士号が取得できそう、じゃあその先どうするか」と考えなくてはならない時期に、研究活動そのものをとても楽しいと感じていたからです。

思えばこれまでの進路選択も、その時々の自分の「好き」や「楽しい」に素直に従ってきた気がします。中学までは海が近い小さな町でのびのびと過ごしていました。勉強よりも部活や習い事に熱心でした。高校は「算数と理科が得意」という理由で理数科に進学しました。裏を返せば、国語や社会といったいわゆる文系科目があまり得意ではなかったのです。大学で工学部に進学して情報科学を専攻したのは、オープンキャンパスや資料などで知ったこの学問分野が「何となく面白そう」だったからで、自然言語処理という研究分野に飛び込んだのも、幼少期に惹かれた “歌って踊れる人工知能” に手が届くかもしれないと思い「わくわくした」からでした。

表現の機微を丁寧に捉える繊細な自然言語処理

皆さんは、自動翻訳ツールや文書作成ソフトの校正機能、スマートフォンやスマートスピーカーに搭載されたバーチャルアシスタントを使ったことがありますか? 人によっては毎日のように使っていて今さら特段の意識はないかもしれませんが、これらはまさに「人間のことばを処理するコンピュータ」で、自然言語処理技術の社会実装のひとつです。

自然言語処理の主要な研究領域のひとつに「文生成」があります。文生成は、自然言語文を入力として受け取り、特定の規則のもとでそれに対応する自然言語文を出力する形式をとる諸タスクの根幹をなす技術です。翻訳(文を受け取り、別言語の翻訳文を生成)や校正(文法や表記に誤りを含む文を受け取り、誤りのない文を生成)、対話(発話文を受け取り、それに続く応答文を生成)も文生成技術に基づきます。近年の主流は深層学習に基づく強力な文生成モデルを何千億という膨大な言語データで学習する方法論で、これは文生成技術を飛躍的に改善しました。対話においても、このような深層学習型モデルは、従来とは比べ物にならない流暢さで、初めて見る発話に対してももっともらしい応答を出力できるようになりました。

私たちが日頃何気なくしている対話は、実は非常に多様な情報を処理した上に成り立っています。私も何度も経験がありますが、大抵の場合「何を伝えるか」が適切なだけでは円滑なコミュニケーションは成り立ちませんよね。同じ内容であっても、相手との関係性や周囲の状況等に応じて「それをどのように表現すべきか」についても検討する必要があります。表現の差異によってもたらされる微妙なニュアンスの違いを正確に理解して自在に扱うことは、コンピュータにとってはまだ難しい問題です。これまでもモデルの改善などを通してこの問題に取り組んできましたが、今後も、繊細で正確な言語理解や処理技術の実現を目指して研究を進めていきたいと思います。

日々の暮らし

一日のほとんどの時間はパソコンを触っています。資料や文献を読む、論文を書く、実験をするといった研究活動は、私の場合、ノートパソコン1台さえあれば大体のことができてしまいます。実験ではスーパーコンピュータやAI研究用の大規模計算機を使うことも多いですが、そのために私が実際におこなう作業は手元のノートパソコンでプログラムを書いたりコマンドを打ったり、というものです。時間や場所に縛られずに研究ができるのはありがたいですし、自分にはこの身軽な働き方が合っていると感じます。

大学では、主に青葉山キャンパスと川内キャンパスで過ごしています。どちらのキャンパスも、自然と文化に囲まれた素敵な環境です。川内キャンパスの周りは広瀬川が流れていて、晴れた日に川沿いを歩くととても気持ちが良いです。研究室からふらっと歩いていける距離に美術館や博物館があるのも嬉しいですね。キャンパス周辺には歴史的な名所もたくさんあります。川内キャンパスはもともと仙台城があった場所ですし、観光地としても人気のある仙台城跡は青葉山キャンパスのすぐ近くです。私はお城が好きなので、仙台城を身近に感じられる場所で働いていることに毎日密かにテンションを上げています。

工学を目指す人へ

まずは、これから進路選択をする方へ。これまで私も大小様々な選択をしてきました。その中で、やってよかった、意識してよかった、と思っていることがふたつあります。

ひとつは、自分の「好き」や「楽しい」を大切にすることです。当時は理由が言語化できなかった「何となく好き、楽しい」という感覚も、後から振り返ると実は案外理に適っていた、ということが結構あります。私の選択はこの感覚に従うことが多かったのですが、結果としてそれが良かったと思っています。「好き」は知識欲、「楽しい」は向上心の糧になりましたし、惹かれて選んだ道には愛着と誇りを持って真摯に向き合えました。

もうひとつは、自分をよく知っておくことです。どういう性格なのか、それはどういう場面でどう活かせるのか、どういう条件を満たせば実力を発揮できるのか、何かを学ぶにはどのような環境が向いているのか。様々な経験を通して自分の解像度を上げていくことは、自分に合った選択をするための大事な手がかりになります。世の中にはたくさんの学問が存在しています。できるだけたくさんの世界に触れて、その中から自分が本当に面白いと思える学問を、自分に合った方法でぜひ見つけてください。

そして、そのような学問が工学、情報科学になるかもしれない方へ。情報科学は、情報社会の今を支え、そしてその未来を切り拓くことを使命とする学問分野です。情報科学に基づく技術が急速に社会へ浸透していくなかで、これからも新しい課題が次々に表出するでしょう。情報科学の専門家は、今度ますます世界中で求められると言われています。このスピード感あふれる刺激的な世界に、ぜひ飛び込んできてください。

 

PROFILE

赤間 怜奈 助教|あかま れいな


東北大学 データ駆動科学・AI教育研究センター
東北大学大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻

愛知県生まれ。2013年宮城県宮城第一高等学校理数科卒業。2017年に東北大学工学部情報知能システム総合学科を卒業後、同大学大学院情報科学研究科に進学。2018年に博士前期課程、2021年に博士後期課程を短縮修了。博士(情報科学)。在学中に平成28年度東北大学工学部長賞、令和3年度電気・情報系優秀学生賞などを受賞。2019年より日本学術振興会特別研究員(DC1)。2021年より東北大学データ駆動科学・AI 教育研究センター助教、理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員。趣味は、コーヒー、音楽、旅行。

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