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東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE

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#12

MEMS技術で体内と外界とをつなぐインターフェースづくり

MEMS技術で体内と外界とをつなぐインターフェースづくり

鶴岡 典子 助教

東北大学大学院工学研究科 ロボティクス専攻

 

半導体技術を応用してマイクロメートル単位の微細な加工を行うMEMS(Micro Electro Mechanical System)という技術をご存じですか?スマートフォンの中の加速度センサやマイクなど身近なところでもMEMS技術は使われています。私はこのMEMS技術を応用し、皮膚を介した外界と体内とをつなぐインターフェースを作製する研究をしています。

体表から身体の状態を計測する際には、必ず皮膚を介して計測を行うことになります。皮膚は体内組織を守る器官で、体外の有害な物質が体内に入らないように、また体内の成分が体外に出ないようにバリアをしています。そのため、皮膚上から身体に傷をつけずに計測を行う場合と、少しでも皮膚の中に入って計測を行う場合では違った情報が得られます。私がMEMS技術を用いて作製した機能付きの微小針は、とても細く短い1本を刺すだけで、皮膚表面からの計測では得られない様々な情報を得ることができます。

例えば、運動時の血中乳酸濃度は運動負荷強度の指標になります。皮膚に針を刺して計測すると血中と同じような計測ができますが、針を刺さずに皮膚上から計測するとうまくいきません。運動時にかく汗を作るときにも乳酸が産生されるので、正しい計測ができないのです。

大学入学後、どんどん医工学への興味が深まりました

私が初めて「研究」というものに触れたのは、工学部1年生の創造工学研修の時です。研修では、心臓手術で用いる焼灼装置を微細に位置合わせするための機構を開発しました。焼灼装置は脚や腕の血管から心臓の中まで挿入するカテーテルという医療機器に搭載する非常に小さなもので、かつ精密な位置合わせも要求されるため、機構も小さく高精度なものが求められます。当時学部1年生の私たちは、TAの方にほぼ教えてもらいながらではありましたが、装置を設計・試作・評価するという一連の開発プロセスを経験しました。もともと医療機器開発に興味があった私は、毎回楽しみに研修に参加していたのを覚えています。この時に先生から、興味があれば研究を続けてみないかとお声がけいただき、学部3年生で正式に研究室に所属するまでの間も、授業の合間を使って研究を続けました。

学部の卒論研究のテーマは、小型の収束超音波素子を用いて経穴、いわゆるツボを、針を刺さずに刺激する装置の開発でした。医学部の先生との打ち合わせを繰り返して研究を進める際には、使われている専門用語の違いや重要視するポイントの違いなど、慣れないことも多くありました。しかし、その一つ一つが新鮮で、やりがいがありました。実際にその装置を使用する医師に直接意見を聞きながら開発を進める、医工学研究というものを実感できた瞬間でした。

研究は学びの連続

修士課程に進学してから取り組み始めたのが、微小針を用いた成分計測システムの開発です。外径0.2mmの鍼灸針の表面に作製した流路を用いて、皮膚内の生体成分を回収します。微小流路構造が作製できたら、その有効性を確かめるために生体に対する試験を行う必要があり、これにはもちろん医学の知識が必要です。作製した針で乳酸を回収できたら、回収した乳酸の濃度を計測するための電気化学的なセンサが必要で、流路に溶液を流すための機械的に動くポンプも必要になります。このように、私の研究では機械・化学・材料・医学など様々な分野の知識が必要となり、その度に勉強の繰り返しです。私はいろいろなものを学んで挑戦することが好きなので、様々な分野の知識を得ることに抵抗はないのですが、研究としてうまく使えるようになるには独学では限界があります。そのようなときには、学内外の様々な分野の専門家に直接お話を聞きに行ってアドバイスをいただいています。これまでも工学系の他分野の先生や医学部、薬学部の先生など様々な分野の方々に助けていただきました。現在も、学会などに参加して研究仲間の先生方にアドバイスをいただいたり、他分野との融合の集まりに参加して新たな視点からのアドバイスをいだたいたりと、様々な刺激を受けながら研究を進めています。

このような出会いの中で、現在開発している針も様々な成分や対象部位への応用をしてみたいと考えています。また、人だけではなく動物や植物も同じように皮膚・表皮に覆われていますので、動物の健康管理や植物の生育状態の管理などにも応用できるかもしれません。さらには、卒業論文のテーマであった収束超音波を用いた経穴刺激と計測を組み合わせて、刺激に対する応答を計測したり、皮膚表面と皮膚の中を同時に計測したら何が分かるのか、など、やってみたいことはいろいろあります。

日々の暮らし

研究者として仕事をしている中で必要なのは、時間管理能力だなと最近改めて感じています。大学で勉強をしていると、授業などは決まった日程が多いのですが、研究を進める上では、実験をやらなければいけないときがあれば、実験結果の解析をしたり、学会に参加して意見交換したり、論文や本を執筆する時間もあり、様々なタスクがあります。今興味があるのは、手帳やアプリを使ってこれらのタスクをどのように上手に時間管理を行うかです。いろいろ調べているうちに手帳好きの人とつながって、時間管理術をお互い紹介しあったりしながら、自分に合った方法を探しています。

休日は美術や音楽などの芸術を楽しむのが好きです。学生時代からオーケストラで打楽器を演奏しており、休日は所属する市民オーケストラ団体で演奏を楽しんだり、打楽器のみのアンサンブルグループで演奏をしたりしています。自分の目で見て体験するのが好きなので、いろいろなところに旅行に行って、おいしいものを食べたり、その土地の歴史を学んだり、美術を観賞したり、文化に触れることも好きです。美術館での絵画鑑賞は両親と共通の趣味で、時には両親と旅行に行って国内外の美術館を巡ったりと、日常とは全く違う分野を楽しんでいます。

工学を目指すみなさんへ

工学の分野は本当に幅広くて、入学してからも様々な研究の選択肢があります。工学に興味を持ったら、まずはオープンキャンパスなどで実際にどんなことをやっているか見てみて、その中から本当にやってみたい研究を見つけるのもいいと思います。私も大学に入学する前は、適性検査で工学が向いているという結果が出たから工学部に進学してみようかな、程度の考えでした。今の研究室に出会ったのは、高校生の時にオープンキャンパスに参加して、研究紹介を見たことがきっかけです。ぜひ、自分がやりたい研究を探しに、オープンキャンパスに足を運んでみてください。

私が日々心掛けているのは「迷ったらとりあえずやってみる」ということです。やって失敗してもそれは自分の学びになりますし、うまくいけばラッキーです。わからないことがあれば専門家に会いに行ったり、自分で生体からの計測に挑戦したり、デバイスの作製でもいろいろな技術に挑戦しました。挑戦する中では、失敗もたくさんありますが、うまくいかなくてもその経験の中で得られることはたくさんあります。皆さんにも何かのきっかけで面白いなと思ったことには躊躇せずに「とりあえず挑戦してみる」ことをおすすめします。やらない後悔よりやって後悔したほうが得られるものは大きいです。

PROFILE

鶴岡 典子 助教|つるおか のりこ


東北大学大学院工学研究科 ロボティクス専攻

宮城県出身。仙台育英学園 秀光中等教育学校卒業。2010年、東北大学工学部機械知能・航空工学科を卒業後、東北大学大学院医工学研究科医工学専攻に進学し、2015年に修了。博士(医工学)。2015年より東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻 助教。東北大学プロミネントリサーチフェロー。微細加工技術を応用した医療・ヘルスケアデバイス開発に従事。2015年 日本生体医工学会 研究奨励賞・坂本賞・阿部賞、2016年 一般社団法人電気学会 電気学術振興賞 論文賞、2017年 日本コンピューター外科学会 論文賞(工学賞)受賞。趣味は旅行、打楽器。

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