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東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE

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#9

安全な放射性廃棄物処分の実現に向けて-環境配慮の視点から-

安全な放射性廃棄物処分の実現に向けて-環境配慮の視点から-

関 亜美 助教

東北大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻 核エネルギーフロー環境工学分野

 

理系進路選択

小さい頃は、実家近くの海岸の砂を磁石にくっつけて遊んだり、田んぼや森からホタルやカブトムシを捕まえてきて飼ってみたり。理系一家ということもあり、科学館や博物館によく連れて行ってもらいました。夏の自由研究も一家一丸となって取り組み、夏休みの大イベントでした。そんな幼少期を過ごしたためか、中学卒業後は理系科目を専門的に勉強したいと思い、実家がある酒田市の隣の市にある鶴岡工業高等専門学校(高専)への進学を決めたのが理系進路を選択したきっかけです。

高専全体で見ると女子学生の割合は1〜2割でしたが、入学した学科が化学系だったのでクラスの1/4は女子学生、また女子寮での生活だったので周りには普通に女子学生が居ましたし、女性が少ないからといって不便を感じたことはありませんでした。ただ、入学当初は校内ですれ違う学生がほとんど男性で、とても驚いた覚えがあります(笑)。

環境科学との出会い、インターンシップを機に

博士(環境科学)を取得するきっかけともなった環境科学分野との出会いは、高専の研究室配属時に、廃棄物の再資源化などの環境問題に関わる分野に興味を抱き、この分野の研究室へ配属されたときです。高専の研究室では、2011年の福島第一原子力発電所の事故に関連し、風評被害を受けた福島産シルクの新規活用方法の開発に携わりました。同研究テーマを高専専攻科でも継続し、環境分野をより広く学びたいという想いから、専攻科修了後は東北大学大学院 環境科学研究科への進学を希望しました。大学院では、石炭火力発電所で生成される副産物である石炭灰を研究対象とし、石炭灰に含まれる微量有害元素の不溶化処理方法の検討や、石炭灰の安全な有効利用促進に向けた研究に着手し、博士課程前期、後期を修了し博士号を取得しました。

研究職への憧れを抱いたのは、高専専攻科在学時に短期インターンシップで国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)にお世話になったときです。インターンシップでは、世界を相手に研究に取り組み活躍されている研究者の方々に、研究紹介をはじめ研究者としての想いなど、様々なお話を聞きました。そこには並大抵ではない責任感が感じられて、正直辛いこともたくさんあるけど楽しい、と目を輝かせながら仰っていた姿がとても印象的で、「研究職ってかっこいい!」と感銘を受けたことをいまでも鮮明に覚えています。研究者としての道を志すようになったのは、このインターンシップがきっかけです。

放射性廃棄物処分に関する研究

現在は、放射性廃棄物の処分に関する研究に携わっています。「放射性廃棄物」と聞くと、ネガティブなイメージを持たれる方が多いかもしれません。放射性廃棄物の安全な処分の実現に向け、原子力バックエンドの分野では、これまで工学分野では前例がないほどの超長期のタイムスケール(万年単位)を想定しながら多くの研究・検討がなされています。

放射性廃棄物の処分は、自国で安全に、かつ将来世代に負担をかけないように処分するという考えから、世界的に地下を利用した処分が選択されています。放射能レベルや放射性元素の化学形態により処分の地下深度が異なり、日本では、地下の浅い順に(放射性物質の濃度が低い順に)トレンチ処分、ピット処分、中深度処分、そして地層処分となります。例えば、使用済燃料の再処理施設で生じた高レベル放射性廃棄物は、地下300m以深に廃棄物の固化体(ガラス固化体)を人工バリア(緩衝材)と天然バリア(地下の岩盤)に覆う多重バリアシステムとして定置することで、生活圏を放射性物質による放射線の影響から防護(隔離)します。

地層処分システムの安全性評価(性能評価)では、万が一、廃棄体の一部やその周辺の人工バリアに亀裂が入った場合、地下に存在する地下水と廃棄体が接触し放射性物質が溶出してしまうため、このようなケースを想定した評価も行われています。私自身は、地下の処分場周辺に生成し化学バリアとなると考えられるセメント系物質への放射性核種の収着や溶脱といった移行挙動や相互作用を解明し、そのバリア機能を明らかにする研究を行なっています。さらには放射性核種のみならず、環境配慮が必要となる重金属等についても、その相互作用を評価しています。超長期に亘る放射性廃棄物の処分において、地下環境の変質や、放射性核種および重金属等の移行挙動に関する理解を深めることは、地層処分システムの性能評価においても非常に重要です。放射性廃棄物処分におけるバリア機能向上を目指して、環境配慮の視点も取り入れながら私なりに挑戦しています。

大学院時代を振り返って

学生時代を振り返ると、大学院に進むことが決まったときは、博士課程前期2年と後期3年の5年間、長いんだろうな、なんて思っていましたが、大学院生の生活は、講義、研究、学会発表、論文、装置管理、研究室運営サポートなどで忙しく、あっという間の5年間でした。所属研究室は留学生が多く(多い時には10カ国)、日本にいながら他国の文化に触れられる貴重な経験だったと思います。留学生の中には、家族(旦那さんとお子さん)と一緒に日本に来て勉強をしている女子学生もいて、プライベートを大切にしながら研究者としての夢を追う姿に刺激を受けました。

研究室での生活以外にも、サイエンス・エンジェル(SA)に参画し活動したり、リーディング大学院に所属して他研究科の大学院生と共に東日本大震災後の被災地調査や防災教育といった活動をしたりと、充実した日々を過ごしました。

ライフイベントとしては、博士課程後期2年次に学生結婚しました。女性は博士課程後期に進むと結婚が遅れる、研究職に就くと婚期を逃すとか、そのようなことを稀に耳にしますが、空言ではないでしょうか。女性だからとか、将来は結婚したい・子供が欲しいからという理由で、将来の選択肢として研究職を外す必要はないと思います。

工学系を目指す皆さんへ

工学系は、社会を豊かにする、社会のニーズに応える技術や製品を創り出すために必要な技術や知識を学ぶことができる学問です。基礎はもちろん、実用的な技術を習得できるところが工学系の特徴であり魅力だと思います。一言で「工学」と言っても、その専門分野は例えば、機械、材料、化学、バイオ、環境、エネルギー、災害、社会システムなどと非常に幅広です。

是非、高校や大学で学んでいる科目の中で、自分はどんな分野に興味があるのかを意識してみて下さい。そうすれば自然と将来の方向性が見え、より良い分野選択ができるのではないでしょうか。そこで、工学系分野に興味を持ってもらえたら嬉しいです。勉強以外にも、部活、サークル、趣味などで、たくさんのことに挑戦して視野を広げ、たくさんの失敗や経験を積み重ねてください。経験の一つ一つは、必ず人生の糧になるはずです。

私自身は、高専入学や博士課程後期への進学に関して、周りにはよく「女性で珍しいね」なんて言われましたが、全く気にしていませんでした。人生の物語は人それぞれ、誰かと一緒なんて面白くないと思っていますし、研究職への憧れが自分の中にあったからだと思います。

性別や周りの目は気にせず、自分が進みたいと思う道に突き進んでみてください。芯を持って夢に向かって一歩ずつ進んでいけば、きっと素敵な未来が待っています。是非、たくさんの経験を重ね、自分らしく素敵な人生を歩んでください。

PROFILE

関 亜美 助教|せき つぐみ


東北大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻 核エネルギーフロー環境工学分野

山形県酒田市出身。鶴岡工業高等専門学校物質工学科を卒業後、専攻科物質工学専攻に進学、2015年に修了。環境科学をより広く深く学びたいと思い、同年に東北大学大学院 環境科学研究科に入学。2017年に博士前期課程および2020年に博士後期課程を修了。三菱マテリアル株式会社で化学分析技術の研究開発業務に1年間携わり、2021年4月より現職。現在は、放射性廃棄物処分の分野において、地下の処分場周辺に生成するセメント系物質と放射性核種や重金属等との相互作用を研究している。趣味はドライブ、旅行、美味しいコーヒを飲むこと。

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