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東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE

#7

世界最先端、「超高齢社会」で必要とされる建築に取り組む

世界最先端、「超高齢社会」で必要とされる建築に取り組む

佃 悠

准教授

東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻

 

建築を「計画」すること

「建築」というと何を思い浮かべますか?
普段身近にありすぎて意識したことがないかもしれません。しかし、自然の前では脆弱な私たち人間が安全に生活するには、建築は欠かせない存在です。そのため、都市や建築内部の最適な環境性能、構造的な安全性などを支える様々な技術から成り立っています。一方で、建築が持つデザイン性はその建築が建てられた場所それぞれの文化や風土を背景としており、芸術的歴史的な価値を持つものでもあります。私が専門としている建築計画学はその中でも人間の行為や活動から建築を考える学問です。

建築を科学的に実証する

建築計画学の研究では、実際の使われ方を観察することで得られた知見を、次に作られる建築へフィードバックすることを目指します。思えば、そのような研究スタイルが自分になじみやすかったのは、子どもの時の経験にもあるような気がしています。
私が育った北九州市は明治時代に八幡製鉄所が設置され、戦後も北九州工業地帯として製鉄業を中心とした工業が発達しました。私が子どもの頃にはすでに陰りは見えていましたが、小学校区には社宅や公営住宅の団地が多く、毎日小学校から帰ってから暗くなるまで、団地を遊び場に走り回っていました。時には、団地に住む友達の家で遊ぶこともありましたが、どの家も同じ間取りなのに、全然違う家具の配置や使い方になっていることをいつも面白く感じていた記憶があります。また、北九州市の公共施設は、村野藤吾さんや磯崎新さんといった有名建築家が設計したものがたくさんありました。その建築家がどれほど凄いかということを知る以前に、建築家の生んだ空間に慣れ親しむことができたのは今では貴重な経験だったと思います。特に磯崎新さんが設計された北九州市立美術館では行くたびに建物の中で遊びまわっていましたし、市立中央図書館は大学受験時、放課後によく通いました。
大学で建築学科に進んで、4年生で研究室に配属される際に建築計画学を選んだのは、芸術的なセンスで建築を作るよりも、設計を論理的に考えることの方が自分に合っているのではないかと感じたからです。建築計画学は、戦後、大量の住宅供給が必要になった時代に成長した学問です。実際の使われ方を調査・分析し、その成果から新たな建築を生み出すという科学的な背景があるからこそ、そのような論理的思考を感じられたのだと思います。

東日本大震災からの住宅復興

博士課程の時に、高齢者の住宅や施設を対象に研究していたこともあり、2012年に東北大学に赴任した後は、東日本大震災の被災地に建設する災害公営住宅の計画に関わることになりました。震災では、青葉山キャンパスにあった都市・建築学専攻の校舎自体も大きな被害を受け、片平キャンパスの電気通信研究所に間借りしていました。沿岸の被災地でも建築が大きな被害を受け、その復興が急務であることから、被災地の主要大学である東北大学の先生方は、各地の支援に入られていました。私が配属された建築空間学研究室(小野田泰明教授)も多くの自治体の復興支援を行なっており、そのため災害公営住宅の計画に関わることになりました。特に人口減少や高齢化が進む被災地では、高齢者の入居が多くなることが予想されていましたので、阪神・淡路大震災や中越地震など過去の災害での研究成果をもとに、入居者の孤立化を防ぎ、コミュニティに配慮した住宅の実現を、自治体や住民の方たちと一緒に考えていきました。一年目は被災地での打ち合わせから研究室に戻り、その資料整理、さらに講義やその他の業務など夜遅くまで行っていましたので、実は何をやっていたかよく思い出せません笑


東日本大震災からまもなく10年を迎え、多くの復興事業は終わりに近づいていますが、今でも被災地に通っています(写真は陸前高田市の災害公営住宅で行われている朝のラジオ体操に参加したときのものです)。建築計画の仕事の一つは、設計が始まる前の条件を整理していくことですが、もう一つの重要な仕事は、先ほども述べたように出来上がった建物を調査・評価し、次に建物を作る際の資料を蓄積していくことです。10年の間に、災害公営住宅に入居された方たちもその分歳を取っています。特に高齢者の場合は身体状況の変化も大きいので、当初上手く使いこなしていた住まいも思うように使えなくなってしまうといったことが起こります。長期に関わることで、一人ひとりにとって住宅の役割がどのように変化していくのか理解することができます。
日本は災害頻発国であり、高齢化が最も進む国の一つです。私たちの今生きている超高齢社会は、他の国の誰も経験したことがない世界でもあります。東日本大震災被災地での経験は、世界のその他の国々に参考になる知見も多いと考えています。私たちの経験を海外に発信し、一人ひとりが幸せに生活するために建築に必要とされるものは何か、世界の人たちと考えていきたいと思っています。

日常を楽しみ、日々を丁寧に生きることが
よい建築につながる

実は、仕事と趣味が一体化していて日常生活の中で切り分けるのが難しいです笑 どういうことかと言うと、どこかに旅行に出かけると大抵の場合そこには建築があり、その空間やまち自体を体験することも仕事に活かせますし、地域の産業や食などはその場所の文化や生活に結びついているので、その都市や建築を理解する手助けになります。本を読むことを通して人の思想や生活を考えることも、建築の意義を考えることにつながります。旅に出なくても日々の発見が、よりよい建築を考えるヒントになります。
一年の4分の1ほどは、国内外のいろいろな場所に出かけて、都市や建築を体験するだけでなく、施設を運営する方やそこで生活している方たちにもお話を伺います。特に東日本大震災被災地での住宅調査では高齢者の方にお話を伺うことが多いのですが、長い人生を乗り越えてきた方々から聞くお話はとても深く、勉強になることが多いです。学生時代に先輩から、「学者とは常に学び続ける人だ」と教えてもらいましたが、いくつになっても様々なことから学びを得られることは幸せだと感じます。

2019年の一年間は、工学研究科の若手研究者助成を受けて、イギリスで研究を行わせていただきました。UCL(University College London)に所属し、世界で最もレベルの高い建築教育に触れるとともに、イギリスを中心としたヨーロッパの建築を現地で見て回ることができ、文献を読んでいるだけではできない発見も多くありました。また、滞在中はイギリス人の家にホームステイしていたのですが、イギリスでの生活スタイルを実体験として経験することができたのも大きな収穫でした。ロンドンには大きな公園がいくつもあり、住民に親しまれていますが、私も休みの日には、ハムステッド・ヒースやハイゲート・ウッドまで散歩して、鳥の声や木の間から漏れる光など季節の移ろいを感じながら気分転換をしていました。日本に帰ってからも、オンオフをはっきりさせるようになったのはイギリス生活のおかげかもしれません笑

工学を目指す人へ

日本では建築の学科の多くは工学部に属していますが、海外では必ずしもそうではありません。欧米などでは芸術の分野の一つとして位置付けられている場合も多いです。日本で建築の学科が工学部に属しているのは、明治時代に欧米の教育が導入された経緯によるのですが、日本で生まれた建築計画学という学問が科学的な姿勢をもとに建築を考えるという点は、工学部で育ってきた学問ならではだと思います。
日本には豊かな四季がありますが、それは一方で環境の多様性につながり、私たちは風水害や積雪など過酷な自然環境との対峙を余儀なくされます。さらに、地震国でもあり、地震の力に耐える建築構造も必要とされています。このような安全性のための最新の技術と、人の住みやすさやデザイン性を兼ね備えた建築を創造することは、工学で建築を学ぶ価値の一つだと思います。
ぜひ、まだ見ぬ新しい建築を一緒に創造していきましょう。

PROFILE

佃 悠|つくだ はるか

准教授
東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻

福岡県北九州市出身。明治学園高等学校卒業。東京大学教養学部理科一類に入学し、工学部建築学科に進学。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了後は、ビルマネジメント会社に就職。実際に稼働する建築でのマネジメント実務に関わる。その後、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程に進学、2012年に東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻助教、2020年に現職。東北大学に赴任後は、東日本大震災被災地での災害公営住宅計画やコミュニティ形成支援に関わり、その後継続して現地の復興状況を調査・研究している。趣味は読書、散歩、ドライブ、東北大学へ赴任後に始めたスキー。

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