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東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE

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#20

疾患の早期認識に向けた光半導体の新たな応用

疾患の早期認識に向けた光半導体の新たな応用

五十嵐 アン 助教

東北大学大学院工学研究科 電子工学専攻

 

半導体は、条件によって電気を通したり通さなかったりすることができる、電子をコントロールする特別な素材です。電子と光との相互作用により、光の性質を変化させることもできます。これらの特性を利用して「光半導体デバイス」が生まれ、スマートフォンや家電製品、精密機器など、幅広い機器に組み込まれており、様々な分野で重要性が高まっています。

私は、光半導体デバイスを使って、体内の微小な分子を検出し、早期に疾病を見つける方法を研究しています。これは、私たちが病気を感じる前にそのサインを見つけることができる超高感度の検出器を持つようなものです。光半導体デバイスは、光を使って分子を「見る」ため、病気の診断が極めて正確で迅速です。

私たちは光半導体デバイスの表面材料を改良したり、デバイスの構造設計を最適化したりすることで、DNAのような特定の分子を捕捉して識別する能力の向上に取り組んでいます。光半導体デバイスが光と分子とどのように相互作用するかメカニズムを理解し、これまで以上に早く簡単に病気を検出するツールを作り出すことを目指しています。

研究のおもしろさ

私は学部生のとき、工学実験の授業で、自分で電子回路を設計しました。小さな変更が大きな違いをもたらすことを見るのは面白かったです。これが、なぜこれらの変化が起こるのか、そしてそれを使って役立つデバイスを作る方法に興味を持つきっかけとなりました。

卒業研究では、体内の抗体のようなものを検出できる半導体型バイオセンサの開発について研究しました。これらのセンサーには、現代の電子機器の基礎となる半導体と呼ばれる小さな材料を使用します。半導体の動作原理を確かめることができ、デバイスを作製することができました。微細加工の装置を操作し、肉眼では見えないサイズのデバイス構造を作製し、電気信号を取得できたことが嬉しく、まさに学生時代ならではの研究の面白さを実感することができました。

修士課程を修了後、半導体製造装置のエッチング装置の開発部門でエンジニアとして働きました。私の仕事は、より優れた電子デバイスを作るためのプロセスや機械の開発でした。それは世界最高のクッキーを焼くための完璧なプロセスや装置を作り出すことに似ています。

博士課程ではイオンを可視化する高解像度な半導体イメージングセンサの開発に取り組みました。細胞の特性測定や半導体デバイスの作製プロセスの開発などの新しいことにチャレンジしていきました。自分の自由な発想が、社会で実際に使用される研究で貢献したいと考え、研究者の道に進みました。

これまで経験してきた知識を活かして、助教に着任後、独自な研究として、生体分子を検出する光共振器デバイスの研究を行っています。分子と共振器デバイスで生み出す光の物理現象を解明し、高性能で小型なデバイスの開発を進めています。デバイスの性能を最適にするため、数学計算などのシミュレーション、デバイスの構造設計、デバイス試作、特性評価にチャレンジしています。

「チップ上の検査室」である光半導体デバイスを作る夢

現在、アルツハイマー型認知症の病理診断には、PETスキャナーのような高価で複雑な機械が必要で、患者にとっては負担が大きいです。研究者たちは、アルツハイマー病をより簡単でアクセスしやすい方法でスクリーニングする方法を開発しようとしています。

私は、このような病理診断に役立つ光半導体デバイスを作る夢を持っています。光や生体分子を分析して、すべての必要なテストを行うことができる「ラボオンチップ」を作成することです。まだ初期段階にありますが、電子工学、生物学、医学などの異なる分野の知識を組み合わせて実現に向けて努力しています。

日々の暮らし

研究と家庭生活の両立は、特にキャリア初期の研究者にとって大きな課題です。その中で、環境の変化に適応し、状況を乗り切ることが重要です。研究課題に効果的に取り組むためには、他分野の専門家とも状況を共有し協力をお願いするようにしています。

個人的なライフイベントに直面したときには、他者からの支援を求めることが不可欠です。COVID-19パンデミックは、仕事のダイナミクスに前例のない変化をもたらし、リモートワークへのシフトを推進しました。新しく助教に就任した私は、自宅で子供の世話と新しい研究課題に取り組むことになりました。この期間中、家族の揺るぎない支援と研究室のメンバーの協力が、育児と仕事の不安を軽減するのに役立ちました。最近では、東北大学工学系女性研究者育成支援推進室(ALicE)による研究支援を活用しています。このおかげで、研究に専念できる時間が大幅に増え、持続可能なワークライフバランスを実現しています。

工学を目指す人へのメッセージ

私はものづくりに興味があり、機械・電気など工学系を中心に勉強してきました。しかし研究の実現には、情報工学、化学、生物学などのさまざまな分野にわたり知識が必要なため、少しずつ他分野の知識を学ぶようにしています。工学の勉強を進める中で、学際的な知識も大切です。自分の分野での専門家でありながら、他分野への理解や興味を持つことは、新しい発想や問題解決のアプローチを生み出すきっかけとなります。専門知識と学際的な理解のユニークな組み合わせは、将来のキャリアや研究活動において貴重な資産となるでしょう。

また、自分の発想を共有し、協力してもらうことが大切です。近年では、AIや先進な情報技術の発展により、独立して作業することが容易になりつつありますが、人間の相互作用の価値を過小評価しないでください。仲間と交流し、課題を共有し、研究のアイデアを議論しましょう。これらのつながりが、予期しない機会をもたらすことがあります。

PROFILE

五十嵐 アン 助教|いがらし あん


東北大学大学院工学研究科 電子工学専攻

ベトナム・ホーチミン市生まれ。群馬大学大学院工学研究科生産システム工学専攻 修士課程を修了。3年間 東京エレクトロン(株) エッチング部門エンジニア。東北大学大学院医工学専攻 博士後期課程(医工学)博士課程を修了。1年間 東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)学術研究員。2020年より現職。2022年度(研究助成)第1回 花王Crescent award。2023年度 第16回井上リサーチアウォード受賞者。2024年度 石田實記念財団研究奨励賞。趣味はパン作り。

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